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2012-06-28

立花城宴の始末

さてさて最近生活が荒んでいるわけだけど、ちびちび陰徳記。

これまでのあらすじ:
愛しい女房を病で亡くした立花何某は仏門に入り後室を迎えなかったが、
あるとき出かけた先で見かけた女を一目見るなり気に入り、手勢に攫ってこさせた。
女は、塩売り弥太郎の妻だった。


塩売弥太郎、立花を殺すこと(5)

弥太郎はそれと知らず、塩を売りつくして夕方に自分の家に帰ってみてみれば、
いるはずの女房が、どこへ行ったものか、見当たらなかった。
最初は、きっと近くに出かけているのだろうと、女房が帰ってくるのを待っていたが、
どんなに待っても女房が戻ってこないので、近所の者たちに女房の行方を知らないかと訊いてまわった。
しかし杳として行方は知れなかった。
弥太郎は、「これはいったいどうしたことか。
天狗や木魂などという恐ろしい妖怪が連れ去っていったのだろうか。
人であるなら、商人や盗人などといった一癖も二癖もある者がかどわかしていったのだろうか」と、
鬼に一口に呑まれてしまったような気分になって、足をすり合わせて泣いた。

そうしてばかりもいられないので、また塩を売り歩いていた。
さて、その女房は立花の城に入ってからは、夫の面影ばかりを思い出して忘れる隙もなく、
浪の上に小舟がゆらゆらと浮かぶのを見るにつけても悲しさばかり募っていった。
「こんな幸運にめぐり合ったからといって何ができるのだろう。
玉の輿も、八重垣茂る立派な宿もいらないから、夫婦で一緒にいたいものだわ」と思い沈んだ。

あるとき矢倉まで出て四方の山々を眺めていると、
「夫の弥太郎は自分の妻がここにいると知らずに、私の行方をあちこちに尋ねまわっているかもしれない」
と考えてまた悲しくなる。
どうにかしてもう一度会いたいと嘆き、
「もしかしたらあの山の向こうに夫がいるかもしれない。あなたがいる方向が恋しい。
雲よ、隠してしまわないで」と独り言を呟いていた。
するとそこへ、いかにも無骨そうな声がして、「塩売らー、塩売らー」と客を呼ぶ声が聞こえてきた。
疑いようもなく夫の弥太郎の声である。
女房は、「これはきっと出雲の神のお引き合わせに違いない」と嬉しくなって、
すぐに走り出ていって夫を呼び止めたいと思ったが、さすがに人の目がたくさんあるので、
吉野の山のなかに流れる妹背川で激しい波に夫との仲を引き裂かれるような気持ちがして、
涙に咽ぶしかなかった。

けれどもこれで諦めるつもりもなかったので、小篠という下人に言いつけて、
「あの塩売りから塩を買いたい。明日当城の裏方へ来てほしい」と伝えさせた。
弥太郎は大喜びして、翌日に塩を一荷担いで城の中へと入ってきた。
その小篠という下人がすぐに出てくると、塩を受け取って内に入り、その塩籠に米を目一杯詰めて返してきた。
弥太郎は、「これは塩の価格の十倍に当たる。受け取れるものではない」と断ったが、
小篠は、「いいから取っておきなさい。また明日もおいで」と言った。
弥太郎が不思議に思いながらも家に帰って見てみると、米の底には銭が百疋も入れられていた。
「さっきの城の女房は、きっと人に福を与えてくださる弁財天、
もしくは毘沙門天の妹君の吉祥天女などの化身なのか。私が困窮しているのを助けてくださった」と、
じっとしていられないほどの喜びようだった。

また翌日も塩を一荷担いで昨日のように持っていくと、また同じような対応だった。
「またおいで」と言われたので、弥太郎は三日目も続けて通った。
するとまた同じように対価を与えられ、自分の庵に帰って米を取って見ると、
入れ物の底に、なんて書いてあるのかはわからないが、一枚の紙が入っている。
「これはきっと文というものだろう。何かわけがあるのだな」と考えて、
三里ほど離れたところに住んでいる宗六という伯父のところに行って読んでもらおうと、
文を懐に入れて伯父のところへと尋ねていった。

伯父が文を手にとって、「いったい何があったのだ」と尋ねてきたので、
弥太郎はあったことを包み隠さず語った。
伯父が文を開いてみると、弥太郎のもとからいなくなった女房の文だった。
読んでみると、あったことがすべて書かれていて、その末尾には、
「もし弥太郎が本望を達しようと思ってくれるならば、来る九月九日は我が氏神の祭りの日なので、
酒を振舞って、立花殿、そのほか家之子郎党たちを酔いつぶします。
そのとき、懸け出しの雪隠の下まで忍んできてください。
時をうかがって小篠を遣わすか、そうでなければ私自身がそこまで行って、道案内をいたします。
そのとき館に忍び込んで、敵を討ち取ってください。
もしまた、男の心と川の流れは一夜にして変わるのが世の常ですから、
私との妹背の契りを断って他の妻を迎えようとお思いなら、それは仕方ありません。
しかしながら、私の心は、曇りなき鏡の神もご存知のように、
重きが上の小夜衣、あなた以外に夫はいないと思っております」と、実に情愛深く書き綴られていた。

伯父の宗六はあふれる涙をぬぐい、
「おまえのような賤しい男に操立てして、この国に肩を並べる者がいない立花殿にも情を移さず、
貞女の道を守り通すとは、稀有な心栄えの女だ。ここから先は弥太郎の意思次第だぞ」と言った。
弥太郎は「これこそ私が望んでいたことです。
忍び込んで易々と敵を仕留め、これまでの遺恨を晴らしたいと思います。
このとおり返事を書いてください」と答えた。
伯父が返事を書いて弥太郎に渡すと、また塩の筒に入れて以前と同じように城中に入り、
小篠という下人に渡した。

さて取り決めの日が近づくと、女房は立花に向かって、
「明日は私の氏神の祭日です。私は身分賤しい農夫の娘で、また塩売りの女房でしたが、
今はこれほどお情けをかけていただいて、天にも昇る心地です。
これはひとえに氏神様のご加護のおかげだと思いますので、以前よりさらにありがたく感じます。
ですから明日は神前にもお神酒を供え、また内外の方々にも酒を振舞いたいと思うのです。
どうか私の望みをかなえてください」と言った。

立花は、「これまでは何を考えているのかもわからず、
塩焼衣が打ちしおれたように嘆き沈んでいた様子だったが、いつの間にか態度が変わって、
解きにくかった下帯がするりと解けるように、こまごまと物を言うようになった。
これは嬉しいことだ」と思って、「よいことを聞かせてもらった。
あなたの言うことならば、蓬莱の島にあるという玉の枝、燕がもっているという子安貝であっても
探し出して贈り、願いをかなえてやりたい。酒宴などお安い御用だ」と了承した。

翌九日、立花は「折に逢いたる我が宿の、菊の下露今日毎に、落ち積みつつ淵となるまでも、
変わらぬ契りをお守りください」と、神に三寸を奉じた。
家之子郎党にも酒を振舞い、自身も盃を重ねていった。
あとは舞ったり謡ったりしながら大騒ぎをして、盃の数が増えていくと、夜もだいぶ更けてきた。
肴はすでに尽き、盃や皿があちこちに散らばって、盃を枕に寝てしまう人もあり、
銚子提げを抱えたまま突っ伏してしまう人もいる。また玄関や大庭に寝転がってしまう者もいた。
立花も前後不覚の様子で帳の中に入っていった。

女房は「ようやく酔いつぶれてくれた」と思って、
「殿、欲しい物はございませんか。酔いのさめるお薬などをお持ちいたしましょうか」などと言いながら、
立花の顔に水を注いだり、押してみたり揺すってみたりしたが、立花はまったく起きる気配がない。
ただの屍のようだったので、そろそろいい時分だと考えた女房はさっと忍び出て、
懸け出しの便所に隠れていた二人の者たちを連れて帳の中へと忍び込み、難なく立花を討ち取った。
そして三人は連れ立って城中を忍び出ると、七、八町ほどの道のりを足早に走って逃げた。

前もって宗像にこのことを伝えておいたところ、そのあたりまで迎えの馬を置いておいてくれたので、
女房と伯父・甥はその馬に乗り、宗像へと逃げ込んだ。
宗像にとっては立花は数代前からの怨敵だったので、ひとかたならず喜んで、
この者たちを丁重に匿い、この機に乗じて兵を集め、立花の城を落とそうと考えた。


以上、テキトー訳。あと一回!

なんだかノリが軍記物というより昔話ちっくな感じだけど、
なかなかスリルもあっていいねぇ。
今回気に入ったのは、夫に操を立てた女房でも女房を奪い返した弥太郎でもなく、
物語の鍵を握った伯父さんでもなく、実は
「銚子提げを抱えたまま突っ伏してしまった人」だよ。なんかちょっとかわいい。
酔いつぶれた人たちの描写、面白いなぁ。
こういう飲み会がデフォルトなら、宴会のときを狙って戦を仕掛けることの強みが理解できるなwww
結婚式の酒宴を狙って夜討ち、正月の酒宴を狙って夜討ち、なんて話はゴロゴロあるもんね。

さて次回、立花さん……は死んじゃったから、立花の城中の人々はどうなるんかねぇ。
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