FC2ブログ
2011-12-08

「名」と「命」

待ち兼ね山の経家さんだよ。

鳥取丸山扱いのこと、付いて吏部以下自害のこと(上)

秀吉から、堀尾茂介(吉晴)・一柳市介(直末)が吉川式部少輔(経家)に使者として送られた。
「去る七月以来、互いに諸卒を苦しめ、いたずらに月日を送ってきました。
ここで和睦を結び、芸州勢は式部少輔をはじめとして、
最後の一人まで無事にお送りしようと考えております。
また、森下・中村・佐々木・塩冶たちについては、山名豊国譜代の家臣でありながら、
自分の立身を優先して主君を追い出すなど、前代未聞の悪逆。
奈佐日本助は海賊の元締めで往来する船を襲い、多くの人を悩ます大悪人です。
この五名の者共を輝元が召抱えるはずはないでしょう。
また信長も召抱えたりはしません。
速やかに首を刎ねて、世の中への見せしめとなさいませ」
城中からは野田左衛門尉(春実)・小野太郎右衛門が出てこの趣旨を聞き、式部少輔に伝えた。

経家はこれをすべて聞いて、しばらく目を閉じて考えている様子だった。
「私は大将を引き受けてこの城に籠もり、諸卒の命を預かる身だというのに、
どうして味方の者たちを捨て、甲斐もない命を永らえて本国に帰ることができようか。
人の一生は百年にも満たず、ただ春の夜の夢、風を待つ草葉の露と同じだ。
先年の後まで残るだろう名を汚すわけにはいかない。神仙ですら一度は滅びる。
人の身であれば言うまでもない。
生は死の始まりなのだから、無駄に屍を荒野の土に埋もれさせ、
空しく名を人知れぬ埋もれ木の谷底に隠すよりは、
今この城に籠もる兵たちの命に替わり、武名を天下に轟かせる方が、忠臣勇士の望みにかなう。
たまたまこの城に居合わせてこの難事に逢ったことは、嘆くに値するだろうが、私は嘆かない。
ただ、氏神様が、私の武名を未来永劫まで輝かすためにお守りくださったのだろう。
どんなに喜んでも過ぎることはない」

経家は野田・小野を遣わして返答した。
「秀吉の仰せは承りました。私は当城の大将としてここにいます。
森下以下の者たちに切腹させ、どんな面目があって本国に帰ることなどできましょう。
ただ私一人が自害いたしますので、諸士の命をお助けください」

秀吉はこの返事を聞き、
「こちらから切腹せよといっても、あれこれと断って命が助かるように策をめぐらすものだというのに、
逆に自分から自害を申し出てくるなど、義を守って死を恐れない態度は感称するに余りある。
このような義士を殺してしまえば、この秀吉は情け知らずのとんだ野蛮人となろう。
どうにか宥めて生きたまま本国へ帰せ」と言った。

重ねてまた堀尾茂介・一柳市介を式部少輔に遣わした。
「お聞きした趣旨は誠にもって珍しくも義を守られていらっしゃるとは思いますが、
しかし秀吉からは、御自らの切腹は無用とのこと。
その上で皆さまの命を助けて国元までお送りするのであれば、経家の武名の傷とはならないでしょう。
森下・中村・佐々木・塩冶・奈良は重罪の悪人ですので、
敵にも味方にも見せしめにするためにこそ首を刎ねてくだされ。
というのも、経家は、ただこの城の検使として、仮に大将の名を与えられたから籠もっているのであって、
それを重罪の輩と同じく自害させたのでは、
秀吉が黒白・邪正をわきまえていないように受け取られてしまいます。
自害はお取り止めくだされ」
使者はこう掻き口説いたが、経家は一向に首を縦に振らない。
これで調略は沙汰止みになってしまった。

城中の者たちは食料も尽き果て、すでに牛馬をも殺して食べてしまい、木の実を拾って飢えをしのいでいた。
調略が入ったと聞けば、乾いた魚が水に出会うような気持ちで、
また調略が切れたと聞けば、屠殺場にいる羊のように憂いを深くして、吐息をつくばかりだった。


以上、テキトー訳。

うーん、もっと悲惨な情景(人肉食とか)が描かれると思ってたらあてが外れたね。
吉川贔屓の読み物だし、それはまあいいんだけど、
吉岡・田公&隅、境与三を読んだ後だと、経家の決心も甘ちょろいものに見えるから不思議だ。
武名を上げるために切腹するくらいなら、とっとと腹掻っ捌いてより多くの者を救えよ。
意地張ってる場合かよ。
って思っちゃうのは現代の感覚が身に染み付いてるからなんだろうな。
通勤の電車が人身事故で混乱したとき、「迷惑な」としか思わないような人間だけど、
それなりに倫理観とか残ってたんだな、私にも。

まったく、ここまでかなり軽快に読み進んできたのに、
経家のこととなるとずっしり重くなるのは何故なんだぜ。
スポンサーサイト



コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

検索フォーム
カレンダー
06 | 2020/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
訪問者数