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2012-06-16

水落の隠岐攻め顛末

ご心配をおかけしておりました、体調もだいたい回復しております。
さてようやく陰徳記。

前回のあらすじ……忘れたなぁ。
織田勢と毛利勢の睨み合いが続く中、毛利配下の隠岐では、隠岐家の家臣たちが秀吉に内通する動きを見せた。
しかし和睦が成立してしまったので、内通の罪を当主に擦り付けて殺害したものの、
その悪事は露見して、新庄に人質として預けられていた隠岐神五郎は復讐を誓う。
しかし隠岐に攻め込むにも兵がない。
この神五郎の前に現れたのが、熊谷家の郎党、山賊夜盗くずれの水落掃部だった。
今回はその水落の武勇伝の続きから。


隠岐守清家生害のこと(下)

その後、椎板入道という者が死んだが、この者は極めて根性が悪かったので、
すぐに地獄に落ちて幽霊となり、夜な夜な辺りを徘徊しているという噂が立った。
水落はこれを聞きつけると、次なるおかしなことを思いついたのか、
ある夜、柿の篠懸に頭巾をかぶり、鵠の羽を集めて左右の腋に挟み、顔には朱を塗って、
真夜中になってから極楽寺に行った。

増誉長老などという僧が念仏を唱えていたところ、後ろの障子がカッと開いたので振り向くと、
飛び込んできたのは六尺ほどの大きさの者で、山伏の頭巾を篠懸にかぶり、
顔は千入の紅よりも赤く、左右の腋には羽が生えて、手には鉄杖と思しき黒い杖を持って立っている。
それは話しはじめた。

「和尚よ、貴僧が西方極楽は日の入りの方角だと教えてくださったから、
それを信じて須弥山の頂上まで登ったが、結局極楽には辿り着けなかったぞ。
そのうえわしは老いて病に苦しんで死んだのだから一歩も引けない。
貴僧は私に、西方は十万億土とおっしゃった。絶対に辿り着いてやろうと思って、
須弥山から引き返して、また西方浄土はどこだろうと探したけれども、
足も老いているし、長く病んだあとだ。なかなか不調で、十分の一も進めない。
弘誓の舟とかいうものが迎えに来ると思って、待てども待てども船影も見えない。

あれこれと訪ね歩くうちに、六道に輪廻して、今は大天狗となってしまった。
心の浄土、このまま阿弥陀になれるという十万億土に行くまでもなく、成仏には底があると聞いたが、
わしにはこんな近道だということは教えてくださらなかったな。
十万億土、あるいは落日観念などといって、西方は日の入りの方角だとか、
黒雲・黄雲・白雲のどれが現れるかによって積みの軽重がわかるなどと、日々教えてくださるものだから、
そんなことを信じて、西へ西へとそれだけを心がけて歩いてしまったが、
どうしてそんなに遠くはないと教えてくださらなかったのか。

それに、釈尊の教えでは法に外れたものは成仏できないといっているが、
阿弥陀の思し召しがあれば、十悪の人間でも、摂取不捨の願力のおかげで成仏できると説法なさっていたから、
それも信じていたのに。
夜盗や海賊の類であっても、阿弥陀の誓いによって仏になれるのであればと、
今生の貧苦に耐えかねて、ずいぶんと盗みを働いた。
盗めればそれでよし、もしカモが現れなければ、一時は艱難を耐える。
戦って命を落としてしまっても、摂取不捨の願力にすがればいい。
死んでしまったらそのまま阿弥陀の来迎を待って、それにすがって成仏しようと思っていたのだ。

心では盗み算段をしつつも、口ではいつも阿弥陀の名を唱え、
この手に人の物を奪い取ったときも、口では阿弥陀仏と言っておった。
だから来世はきっと成仏できると思っていたのに、
これまでの悪行がたたって、閻魔王の責めを受けてしまったではないか。
貴僧はなんと情け心がないのだろう。おまえの邪説のせいで六道の街に迷ったではないか。
おまえを引き連れていって、
『この僧が私に虚説を吹き込んだものだから信じていまい、悪逆を重ねてきました。
私に罪はありません。この嘘つき坊主を代わりにしてください』と、ひとつ頼み込んでみよう。
さあ参ろう」と、僧の腕を取って引き立てた。

この僧は大いに驚き、「さては積もり積もった重罪で魔道に入り、こんな姿になってしまったのですか。
阿弥陀如来の不取正覚の誓願が、空しいはずがありません。
日ごろの罪業は風前の雲と消え、お恵みの日の光が柔らかにさして、
六道四生の暗い道に迷うことはないでしょう。
私があなたのために十七日間経を読み、念仏を唱えれば、きっとすぐに解脱できるでしょう」と言った。

すると水落はこう返した。
「いや、念仏を申して経を読んで成仏できるのはこの世のことだ。今となっては意味がない。
阿弥陀は銭ほども光ると言うから、貴僧が布施で集めた銭をくれ。
地獄に落ちている餓鬼たちにも、黒飯の一杯でも与えて喜ばせ、
閻魔王のおそば近く召し使えている冥官や、阿弥陀のおそばにいらっしゃる小仏たちへも、
『これっぽっちではありますが』と言って、少しの銭でも進上すれば、
わしの重い罪を少しでも軽くするように取り成してくれるだろうから、それで成仏できるだろう。

またこれまで極楽の造営もなかったが、そろそろ少し修理しなければならないところができたと、
小鬼たちが言っていたのを小耳に挟んだ。となれば、銭はその足しにしてもらえばいい。
また八大地獄の釜も、億兆の歳月を経たわけではないだろうが、遠い昔から使っている古い釜だ。
これも片端が破れているものがある。穴が開いているものもある。
最近大鉄囲山を掘り崩して鋳造しなおすことにしたそうだから、こちらにも、
一文でも半文でも協力すれば、阿弥陀如来、または牛頭馬頭や閻魔大王も、きっと機嫌がよくなるだろう。

昨今は末法の世で、人間が仏や僧に金銀を献上することがなくなったから、
釈迦も阿弥陀も閻魔大王も、ずいぶんと困窮していらっしゃる。
とにかく、経や念仏より米や銭さえあれば、成仏がしやすいのだ。
これが極楽・地獄の沙汰なのだから、早く近年の布施を出してくれ。
そうしなければおまえの命をもらっていくか、もしくは行きながらにして一緒に連れて行くぞ。
さあどちらを選ぶのだ」

こう責め立てられて、この僧はすぐに蔵に入れておいた銭を数百貫出して与えた。
水落は、「地獄の沙汰も銭次第と言うから、わしも成仏し、和尚もまた成仏するだろう。
いい場所を見繕って寺などを作ってお待ちいたそう」と言い捨てると、
後ろの築地の崩れからツッと出るかと思うと、掻き消えるようにしていなくなった。
「不思議なことがあったのだ。死んだ者が帰ってきて、来世のことをすべて語っていったそうだ」と人々は噂をしたが、後になって水落の仕業だとわかると、
僧は「熊谷は憎いやつだ。以後の見せしめにしよう」と討手を差し向けた。

水落はこれを見て後ろの山に入り、石見へと逃げ、銀山で雑用などをして日々を送っていた。
貧者は乱を好むもので、隠岐の国に出入りがあると聞きつけると、
これこそ望むところだと思い、づぐに神五郎の館へと駆けつけて、
「数百両の金銀をいただければ、わしが隠岐の国に渡って敵城を奪取してみせます。
憎いとお思いになっている奴らの首を、一人残らず刎ねてやりましょう」と言った。
神五郎は大喜びして「では頼むぞ」と言うと、水落も喜んで出発しようとした。
類は友を呼ぶもので、水落が日ごろ親しくしている者たちは、山賊やら海賊やら命知らずのはぐれ者たちで、
「この仕事をやりおおせればたっぷりと酒代をはずむぞ」と言って二十余人を呼び集め、
小舟に乗って隠岐の国へと渡っていた。

思うように風が吹いて波も穏やかだったので、その日の夜半ごろに隠岐の国へと着いた。
時分もいいので、そのまますぐ少輔五郎の家城八幡丸へと忍び込み、水落はたった一人で家へと上がりった。
「隠岐少輔五郎、逆意はすでに明らかになった。
元春から熊谷掃部助信武が大将として差し向けられたぞ。すでに八幡丸へと乗り入った。
三沢の勢は二の丸へ行け、三刀屋はどこへ切り入れ、牛尾・吉田はそれそれの所へかかれ」などと、
出雲・伯耆の侍たちの名字を呼びながら、舌が回るまま、無窮自在に言い続けていると、
寺本党をはじめとして、「やはりこの陰謀は隠しようがなかったか。
敵は猛勢だろう。そのうえもう八幡丸に乗り入ったとなれば、少勢の我等では防ぎきることはできまい。
まずは落ち延びて、その後で合戦に臨もう」と、我先にと逃げ出していった。

少輔五郎は「こうなっては仕方ない。雑兵の手にかかるよりは」と、腹を十文字に掻き切って死んだ。
寺本安芸守は、そのとき一族たちを集めて酒宴をしていたが、前後不覚になるまで泥酔してしまった。
郎党たちが手を引いて逃げていったが、このままでは落ち延びることもできそうになかったので、
郎党たちは「ご自害なさってください」と勧めた。
安芸守は「わかった」と言ってとある民家に駆け込み、そこで自害して果てた。
そのほか、寺本の一族があちこちに忍んでいたが、
その後吉川式部太輔経言様が隠岐の国を知行したときに呼び戻し、宥め置いた。
しかし中畑源太兵衛尉・中畑新右衛門・湯頭助兵衛などに言いつけて、
寺本五右衛門・寺本神允・寺本善兵衛を討ち果たした。
寺本和泉守とその子息平次郎は、宿所を襲って討ち果たした。

こうした者たちは皆勇士であった。
少輔五郎も勝久に従っていたときは勇の誉れも高い者であったが、
こうして水落一人に騙されて、易々と討たれてしまった。
これは勇が足りなかったからではなく、ただ日ごろの悪逆が自分に返ってきて大罰を蒙っただけだ。
自分自身が無残に命を失ったばかりか、家の武名まで末永く汚してしまったとは、ひどい話である。


以上、テキトー訳。おしまい。

水落さんパネエな。熊谷さん、なんて郎党飼ってるんですか!
強盗にしても演出が入念で恐れ入谷の鬼子母神だわwww 坊さんかわいそうに。

しかし水落と神五郎が同道して隠岐に渡るのかと思ってたら、水落だけで渡っていくとは。
少年のドキドキハラハラ仇討ちを期待してたこの気持ちをどうしてくれるの!
水落の独壇場じゃないの! なぜその場に神五郎がいないのか、小一時間問い詰めたい。
しかし口だけでここまで敵を混乱に陥れる水落、侮れんな。

あとさらっと経言(広家)の名前が出てきたけど、
確か隠岐を宛行ってもらえたのって、人質に出たからそのご褒美だったんだよね。
こんなゴタゴタしてるところをもらったのか。大変だな。
新しい土地に入って、敵対する在地勢力の粛清をするのはスタンダードなのかな。
関ヶ原の後に由宇に入ったときも、在地勢力と一戦してたはずだし。
土地を治めるって大変なんだね(棒読み)。

さて次回も続きだけど、今度はどこだ。高野宮城ってとこの話らしい。
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今回で香川先生の偉大さがよくわかりましたw
水落さんの悪業伝おもろすぎです。
特にあの坊さんへのホラ吹き演説はどっから思いついたんだ?w
「地獄の沙汰も金次第」って苦しい時もお金があれば何とかなる的な意味と思ってたけど、本当に地獄の話を持ち出すなんてwww
そもそもここまで詳細に書くあたり、新庄局ドブス説と同じく熊谷さんへの当て付け・・・
いかんいかん。不粋な事を申しました。

占領地の旧勢力との話は悲しい話も多いですが、逆に興味をそそられます。
大内時代~長州転封までの山口の統治体制を知りたいと思い、『大内氏の研究』という本を買い込んだんですが、いかんいかん、スタートが平安時代の在庁官人(大内の出自がコレらしいのです)で、知識と理解が追い付かず日々うなっております。
しかし、毛利が山口の旧体制を融合していった過程が理解出来れば、隆元・輝元の知られざる功績も見えてくるかも!(そしてへたれ毛利の汚名返上!)と思い、何とか最後にたどり着くよう奮闘中です。
何かよいアドバイスがあればドシドシしてやって下さいませ!

Re: タイトルなし

ちえのわ様

正矩はホントたまに面白すぎますよねw
私のツボは「遠方のことなのでよく知らん」なんですが、
某ヅカ女優さんのように「諦めないで!」と言いたくなります。
水落さんの悪行伝は、悪人だと糾弾しているというよりは、
ちょっとはっちゃけた武勇伝のようなニオイを感じます。
あと、新庄局醜女説は、熊谷氏を貶める意図があったとは思えないんですよね、私は。
熊谷sageというより元春ageと言いますか。モニョモニョ。

統治体制の研究、期待しております。私にはアドバイスできるだけの知識量がないので。
隆元・輝元の知られざる功績……その言葉だけでドキがムネムネしてしまいますね!
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